Neutral 〜ニュートラル

50歳のうめめだかが感じたことやオフタイムのこと、好きな物のこと、趣味etcについてひとりごつ。  SINCE 2005.7.12

『1Q84』読みました。

 5連休のシルバーウィークも終わりですね。だいぶ前に読み終わっていたんですが、なんとなく延ばし延ばしになっていた『1Q84』について、書いてみようと思います。

 連休前に読売新聞を読んでいたら、続編をすでに村上氏が執筆中で、来年にも刊行予定という記事が出ていました。たしかに、謎のままの部分が多いし、上・下巻でなく、BOOK1、BOOK2という表記も何か、続編を感じさせるものでしたが、やっぱり!と嬉しい気持ちで読みました。

 今現在、新聞などの書評などもスクラップしたものの読んでいない状態で、さらに他の人も感想も聞いたりしていないので、あくまでも私ならではの視点で書きます。

 今回私はストーリーそのものについてはあまり触れるつもりはなく(これから読む人もたくさんいると思うので)、それよりもストーリーを形成するディティールにとても関心をもったので、そこら辺を書いてみます。

 本というのは出会うべくして、タイミング良く自分のもとに舞い込んでくると私は思っています。自分の心理状況を反映したように、ヒントになる言葉を詰め込んだような本と出会うような気がします。『1Q84』についても、今回とてもそんなことを感じたのでした。

 この本は主人公青豆♀と天吾♂のストーリーが交互に展開されます。二人は29歳同士で、市川の小学校に通っていた10歳のときに、同じクラスに在籍していました。

 青豆は10歳の時以来、ずっと出会うことのない天吾のことを愛し続けています。彼がどんな風な状況で、どんな風貌になっているかさえも知らないのに、じっと10歳の時の記憶のまま、彼を愛し続けています。ぴょっとしたら永遠に巡り合えないのではないかと、友人のあゆみは青豆にたずねます。そんな会話の中の一節にこんな言葉があります。

 <quotation>

「しかし誰かを愛することができれば、それがどんなひどい相手であっても、あっちが自分を好きになってくれなかったとしても、少なくとも人生は地獄ではない。たとえいくぶん薄暗かったとしても」

 そんな風に思える何かがあったら、それは不変だと思うし、もしかしたら何かを信仰したりするのと同じくらい強い何かになるかもしれないと思います。でもそれは相手が人間であるから、実際に会って身近に感じられたら、そんな風に思えないのかもしれない。そんなことを考えました。でも、そんな風に思えたら、本当に少なくとも人生は地獄ではないのかもしれません。

 もう一か所は本文でも太字で表記されているんですが、ちょっと謎の男(BOOK2まででは、謎のまま終わる)新日本学術芸術振興会専務理事という肩書を持つ、牛河という男の言葉。天吾の前に現れて、300万の年間助成金を渡したいと言い出す。そして、断る姿勢の天吾と何回か会話する中で発せられる意味深な言葉。

<quotation>

 私が言いたいのはですね、世の中には知らないままでいた方がいいこともあるってことです。たとえばあなたのお母さんのこともそうだ。真相を知ることはあなたを傷つけます。またいったん真相を知れば、それに対する責任を引き受けないわけにいかなくなる。

 この二つのパラグラフはなんとなく、今の私の中で引っかかる言葉でした。ストーリーそのもの面白さだけでなく、その登場人物たちから発せられる言葉になにか村上氏からのメッセージというか、そういうものを感じられるんですよね。これは『1Q84』に限った事ではありませんが・・・。

 もうひとつ、これはほんとにディティールというか、村上春樹氏らしい、センスの良さというか、登場人物のイメージを膨らませるところでもあるんですが、天吾が週に1回会っている年上のガールフレンド(のちに安田恭子という名前だとわかりますが)が好きだった、バーニー・ビガードのクラリネットについて語る様子が出てくるんですが、こんな風に語れる女性は素敵だなっと思ったのでした。

<quotation>

 LPのB面六曲目の『アトランタ・ブルース』が始まるたびに、彼女はいつも天吾の身体のどこか一部を握り、ビガードが吹くその簡潔にして精妙なソロを絶賛した。そのソロはルイ・アームストロングの歌とソロとのあいだにはさませていた。「ほら、よく聴いて。まず最初に、小さな子供が発するような、はっとする長い叫び声があるの。驚きだか、喜びのほとばしりだか、幸福の訴えだか。それが嬉しい吐息となって、美しい水路をくねりながら進んでいってどこか端正な人知れない場所に、さらりと吸い込まれていくの。ジミー・ヌーンも、シドニー・ベシエも、ピー・ウィーもベニー・グットマンも、みんな優れたクラリネット奏者だけど、こういう精緻な美術工芸品みたいなことはまずできない」

200909222044000  そんな素敵な枕話を書けるのは、村上春樹さんしかいないと思ったのです。そして、唯一持っていて、ずいぶん前に買ったサッチモのCDを取り出してみたところ、そのガールフレンドが話していた、『LOUIS ARMSTRONG plays W.C HANDY』だったのです。その嬉しさったらありません。早速、『アトランタ・ブルース』(CDなのでB面でなく、11曲目でした。)を聴いてみました。そうしたら、本当に小さな子供が発するような、はっとする長い叫び声 があって、あっと思いました。

 ちょっとしたところにも村上春樹さんらしさを感じて、私はこの本をすぐに読み終わってしまうのがなんとなくもったない気がして、この本の途中に2冊ほど別の小説を読み、わざと読む期間を長くしたりしてみたほどです。

 読み終わってしまうと、なんとなく寂しく、あの村上春樹氏の話の世界に戻りたい気がしたし、いつもそうなんですが、いつの間にか主人公である天吾に恋こがれてしまっているのでした。

 ディティールばかりの解説になってしまいましたが、こんなところに私は村上春樹さんの素敵な部分をいつも感じているのです。続編が出る前に読んでおくと、続編が出るまでの期間も待ち遠しく楽しめるかもしれません。