Neutral 〜ニュートラル

50歳のうめめだかが感じたことやオフタイムのこと、好きな物のこと、趣味etcについてひとりごつ。  SINCE 2005.7.12

揺さぶられる

揺さぶられる
私がアーウィン・ショーの作品を読んだのは今回で二冊目。

こないだの『ローマは光のなかに』はたまたまローマを舞台にした小説を読みたいと思って、検索していたら見つけたのでした。思いがけず、いい作品でいままで全くアーウィン・ショーを知らなかった自分の無知を感じたりします。その解説にショーの傑作と言えば、ルーシィ・クラウンとあり、早速の購入したのでした。

今回読んだ邦題『ルーシィ・クラウンという女』はなんというのか、途中から登場人物達の苦しさが読者にも乗り移ってしまうような切迫感があり、私もこの数日苦しい気持ちが続いていました。実家の母に夜遅くまで本を読んだりしてないで早く寝なさいと、私の生活ぶりを見てもいないのにまさに的中で指摘されて、はっとしながらも、翌朝だるさに苛まれても、読まずにはいられませんでした。

冒頭はパリのナイトクラブのバーで夜食を取りに寄った美しかったであろう女。そして、その女は店主にカウンターに座っていたハンサムな男の名前を聞く、店主はその女に彼には素敵な妻がいると忠告するがその女の名前はルーシィ・クラウン。そのカウンターの男は自分の息子だと言うところから始まる。

時間を遡り、舞台はニューヨークの郊外の避暑地。オリヴァ・クラウン、妻のルーシィ、13歳の息子のトニィーは夏を別荘で過ごし、オリヴァは仕事のために自宅に戻り、ルーシィとトニィーはそのまま別荘に残ることになった。というのもトニィーは重い病気からやっと快復したところでもう少し静養させたかったこともある。それでも秋からまた学校も始まるので、いままでの療養中に母とべったりになってしまった息子を普通の子供と同じような生活にし、活発さと自信を取り戻すようにとオリヴァはブラウン大学に通うジェフという青年を選び出し、オリヴァのいない別荘での日々を過ごす家庭教師兼遊び相手として雇った。ルーシィはこの夫オリヴァの独断を受け入れがたかったが、トニィーがあっという間にジェフと意気投合し、楽しく過ごしているので受け入れ、早速オリヴァに手紙でうまく行っていると伝えたのだった。それから間もなくジェフがルーシィを実は昨年もこの別荘地で見かけ、恋い焦がれていたことを告白し、ルーシィは冗談として受け入れなかったが、オリ
ヴァとの些細ないさかいをきっかけに、ジェフと関係を持ってしまい、
そのことをトニィーの友人でジェフに憧れる少女スーザンが目撃し、トニィーもルーシィとジェフが二人で裸でいる現場を目撃してしまう。トニィーは理由も言わず電話で父オリヴァを別荘に呼び、ことの次第を話した。そして、オリヴァは二週間ルーシィとトニィーの二人を別荘に残したまま、自宅に戻り、考え抜いたあげく、結局はルーシィを許すと決断して二人を自宅につれ返すつもりで別荘に戻った。二週間の間のルーシィとトニィーはいままでの母と子の関係が全く崩壊し、トニィーはルーシィに話しかけなくなった。そしてトニィーのルーシィに対する軽蔑の眼差し。ルーシィはオリヴァに別れたいと言った。オリヴァと別れないなら、もう息子とは顔を合わせないと決めたと告げ、別荘に残った。オリヴァはルーシィを尊重し、自宅にトニィーだけ連れ帰り、トニィーは秋から寄宿学校で過ごしはじめた。

それから、ルーシィとトニィーが会うことはないまま2年ほど経ち、トニィーが16歳の感謝祭にオリヴァはいつものように学校に面会に行き、そのままトニィーを寄宿学校の置いたままにするつもりでいたが、息子の成長を見て、自宅に急に連れて帰りたくなった。ルーシィはオリヴァと二人で旅にでるつもりだったので、トニィーの帰宅に困惑したが、感謝祭らしい手料理を作ったりして一件穏やかそうに過ごしたが、珍しくその日に限ってオリヴァの知人とフットボール観戦で会い、その知人と娘が親しげに自宅にやって来た。その下品な知人と親しげにやり取りする父を見て、トニィーはかつての非の打ち所のないかつての父でなくなったという印象を受け、ルーシィにこんな父にしたルーシィを恨む、もうルーシィと縁を切りたいという言葉が辛うじて消されていた置き手紙を残して、寄宿学校に帰っていった。

それからいろいろな事が置き、母子はあわないで15年以上の時間が過ぎた。トニィーは戦死したオリヴァの葬式にも来なかった。

そして、パリのナイトクラブのバーでの目撃。そして、再会するが…。

再会に至るまでの、そのオリヴァ、ルーシィがそうなるに至ったいきさつ、生い立ちなどが回想され、ルーシィは一人になり、息子に再会し、そこでも二人の関係は一筋縄では行かず、ルーシィの気持ちの全告白があり、もうそのころには読者も打ちのめされ、苦しさの中にもがくという感じでした。

結局のところ、その夏の"よろめき"(訳者が使った言葉)が一家を打ちのめし、崩壊させ、それぞれに罪を負い生きた長い歳月が書かれており、もう久し振りに私も読者として打ちのめされたのでした。

こんな小説も絶版になってしまい、残念でなりません。私が欲しいと思う本は絶版ばかり。このごろ気になる本で絶版になっているものはすぐ買わなくちゃと断捨離アンながら思ってしまいます。

2012年の私の一冊は『ローマは光のなかに』だと思っていましたが、断然『クラウン・ルーシィという女』です。(英語の原題が"クラウン・ルーシィ"なのに、"という女"と付けるのは何故かなと思いましたが、読み終わるとなんとなく訳者の気持ちがわかります。)

苦しくなりますが、心を揺さぶられる一冊です。
今年一番のお薦めです。